2011年10月1日土曜日

ADcafe.311 vol.03 レビュー

09.23に行われたADcafe.311 vol.03のレビューを掲載します。
今回はADcafe.311を主催させていただいている中川が書かせていただきました。

ぜひご一読いただけたらと思います。

□はじめに

ADcafe vol.03で発表してくださった皆さん、ありがとうございました。稚拙な文章ながら、レビューを書かせていただきたいと思います。
今回は学生会議のメンバー4人の研究室や団体におけるプロジェクト、アトリエ事務所に勤務される方の個人のプロジェクトを発表していただきました。

□学生会議について

学生会議は日建設計特別オープンデスク生による第一回復興を考えるブレインストーミングの懇親会において立ち上げたグループです。内容は数ヶ月に1回仙台か東京で集まり、それぞれの近況報告をしあって話し合うというものです。
学生という立場は、まだ実務能力も足りず金銭面においても余裕がない一方で、学生だからこそのフットワークの軽さを持っていると思います。目に見える成果をすぐには出せないかもしれませんが、お互いの情報を共有しながら、自分たちにもできること、また自分たちだからこそできることを話し合うことは、有意義なことだと考えています。
 
●東北大学遠藤貴弘くんによるせんだいスクール オブ デザインでの活動

 災害にまつわる人数、金額、距離、重量、面積などの「量」に注目し、視覚化を試みた活動でした。具体的な内容としては以下になります。

・研究者たちがフォーカスする被災地の分布範囲を視覚化した「地図の地図」
・津波の高さを直感的に理解できるよう視覚化した「比較によって高さを体感する」
・津波が総体としてどのように押し寄せたかを視覚化した「海岸延長によって津波の総体を認識する」
・地震のすさまじい揺れを一目で見て取れるよう視覚化した「揺れるグリッド地図」
・救援物資の入りと出を視覚化した「支援のネットワーク」
・各避難所における震災直後からの物資の不足状況の時系列変化を視覚化した「避難所アセスメントの時空間マッピング」
・具体的な復興の度合いのイメージを視覚化した「50%の被災者復興過程」

災害において、情報の共有はすごく大事なことです。実験の結果も解析しなければあまり意味をなさないように、震災の状況もただ数字をあげるだけでなく、このようにわかりやすく視覚化することで、より迅速なトップダウン的な状況把握を促し、さまざまなことが改善されてくるのではないかと思いました。

□アーキエイドのサマーキャンプについて

石巻市東部の牡鹿半島にある30の浜でそれぞれ地元住民に方々にヒアリングを行い、復興計画案を提案する、7/20-24の5日間で行われたワークショップです。現地において、細かな住民の意見をくみ取りながら計画していく、ボトムアップ型の街づくりと言えます。
LINK:http://archiaid.org/projects/pj0015/

●東京工業大学袁碩くんによるアーキエイド・サマーキャンプの活動報告

 東京工業大学塚本由晴研究室が担当したのは鮫浦/大谷川浜/谷川浜/祝浜で、鮫浦湾を取り囲む、ホヤの養殖が盛んな場所でした。ここで住民の方へのヒアリングをもとに重要なキーワードとして挙げたのは、住民の浜との結びつき、浜ごとの自立性でした。このチームの特徴的な提案は、4集落の漁業機能の集約でした。

袁くんは、現地に行く際に外から人が入っていくことはどうなのかという戸惑いがあったと言っていました。しかし、住民の方が復興のイメージはそれぞれ持っていてとにかく話したいとは思っているが、それをうまく表現できないのが問題であることがわかり、そこで計画案をつくるサポートをしたいと考えたようです。住民の細かな意見を集めていく今回の取り組みは、学生という立場はプラスに働いていたのではないかと思いました。

サマーキャンプの後の漁協支所の協議によって、袁くんのチームの提案した4集落の漁港の集約案が進められることに決まりました。今後も関わらせていただくとのことで、どうなっていくのか注目したいと思います。

●東京理科大学荒井隆太郎くんによるアーキエイド・サマーキャンプの活動報告

東北工業大学福屋粧子研究室+東京理科大学water edge studioが担当した小渕浜は、トツ山を囲み、2つの港に面していることが特徴として挙げられました。特徴的な提案としては、トツ山を一周するお祭りを考慮に入れた道路計画、2つの港をつなぐみなと広場の創設でした。

荒井くんは、住民の方へのヒアリングがいかに難しいかということと、住民の方たちの方が斬新なアイデアをもっているということを話していました。ヒアリング会場において、前に座る人、後ろに座る人、座らず遠くから見ている人、そもそもその場に来ない人、様々な住民の方がいらっしゃる中で、自分たちで模型を後ろの席の方や外に持っていってお話を伺うと、全然違った意見が出たようです。「ヒアリングをする」というときに、どのような方からどのように意見を拾っていくのか、よく意識する必要があることを考えさせられるお話でした。

小渕浜は現在、小渕浜通信というHPを立ち上げ、活発な復興プロジェクトを記録しています。これがおそらくサマーキャンプの後からであったことから、サマーキャンプにおける取り組みが住民の方々をさらに勢いづけることに貢献できたのではないかと思います。

●東洋大学大山宗之くんによる研究室においての活動報告

・アーキエイド・サマーキャンプ
 
 東洋大学藤村龍至研究室が担当したのは小網倉浜/清水田浜で、カキやイワシの養殖が盛んな場所でした。大山くんのチームの提案で特徴的だったのは、高台移転で分散する住宅地を結ぶ散歩道、将来観光地にもしていく展望からの宿泊施設の新設でした。

大山くんチームの活動において特徴的だったのは、現地調査の際にまずお墓を見学したということです。これによってその土地において権力のある人がわかり、実際に訪ねてみるとその方が区長をやられている方だったとのことです。ヒアリングにおいては、はじめは「区長のおっしゃることが絶対である」という住民の方の共通認識があり、こちらのチームも細かく意見を拾っていくことには苦戦したようでした。また、住民の一人は仮設住宅を行政から支給されるのを待っていられないとご自身で購入された、という話もありました。

・国土計画リサーチから3.11を経て書籍になるまで

東洋大学藤村龍至研究室における研究活動について。時間の意識を持つ、インプットからアウトプットへという研究室の指針によって、リサーチから書籍に掲載するまでがかなりハイペースで驚きました。1年半で掲載されたものは以下です。

・『アーキテクチャとクラウド』『思想地図βvol.1』に掲載したCITY2.0リサーチ
・『JA82 -日本の都市空間2011-』に掲載された恵比須・大崎の都市空間リサーチ
・『思想地図βvol2』に掲載されたLITTLE FUKUSHIMA
・『住宅特集』2011年9月号に掲載されたTROPICAL CITY

サマーキャンプにおいても、これらのリサーチの蓄積は大いに生かすことができたのではないかと思います。最後に、「質問する」ことを常に心がけていると話してくれた大山くんは、ADcafeの場でもしっかり一番に質問してくれました。

●ナカジマシゲタカさんによる「オクリエ、アシタエ」の紹介

「オクリエ」は年内の取り壊しの決まった建物に送り化粧をするプロジェクトです。場所は福島県いわき市の小名浜です。ナカジマさんとたんのさんの2人を中心に進められ、住民の方を巻き込みながら行われていきました。壁一面に広がる松の木と、絡み合う光、また「小名浜カラ!」と大きく書かれた力強いメッセージからは、これから復興に向けて、何かが小名浜で動き出すことを予感させてくれるように思います。この「オクリエ」は本にもまとめられ、8月15日に所有者のご家族に送られました。これで「オクリエ」は終了し、これからは「アシタエ」というプロジェクトを行っていかれることです。

ナカジマさんは、「今日できること」をやりながら、「明日できること」をやっていくとおっしゃっていました。「今日できること」であった「オクリエ」のような変化が目に見えて感じられるものは、人の心をぱっと明るくし希望を感じさせてくれるような、すごく魅力的なプロジェクトだと感じました。これからさらに広い意味での復興を目指した、「明日できること」である「アシタエ」がどのような壮大なプロジェクトになっていくのか、すごく気になります。

□フリートーキング

 後半のフリートーキングでは、情報の共有や大学の役割について主に話し合われました。

 情報をネットで公開するなど「ただオープンにする」というよりは、「必要な場所にちゃんと届ける」ことが大事という意見や、情報発信のひと手間を行う第三者の組織が必要なのではないかという意見がありました。ネットで不特定多数に向けて発信するやり方からADcafeのように顔を直接見合わせて伝えるやり方まで、かなり幅広い「共有」の仕方があります。それを場合に応じてデザインすることが大事であることを考えさせられました。

 また、大学は理系文系問わず色々な学部が集まっているため、相互に情報を共有しやすい、あるときは行政や民間企業、建築家など他の組織と関わりやすい、といった利点が考えられます。しかし現状としては、建築学科で行われていることと社会・経済に溝があること、また、入れ替わり激しい中で研究内容をちゃんと継承するのが難しいのではないかということなど、様々な問題を指摘され、大学院生である私自身としてもすごく実感している問題でした。どうすれば研究がしっかり社会において役立つものになりうるのか、これは震災に関わらず常に立ちはだかる問題であるように思います。

□おわりに

今回は発表の内容のみならず参加者も色々な立場の方であったため、議論がすごく活発に行われたように思います。違った立場の方とは、このように顔を合わせて話すことが特に大事で、それによってさらに広い視野からいろいろなことを考えられるようになるのだと思いました。

長くなりましたが、発表してくださったみなさん、参加していただいたみなさん、本当にありがとうございました。


ADcafe.311 staff/中川あや

0 件のコメント:

コメントを投稿