2011年12月13日火曜日

ADcafe.311 vol.04 レビュー

12.03に行われたADcafe.311 vol.04のレビューを掲載します。
今回のレビューは、渡辺明設計事務所の小池宏明さんに書いていただきました。

発表していただいた各プロジェクトを体系的に分類した上で、それぞれのプロジェクトについて詳細な感想を寄せていただいていますので、是非ご一読下さい。

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□はじめに

はじめまして。
AD cafe vol.02から参加させていただいている小池と申します。
この度スタッフの谷口さんのご厚意でAD cafe vol.04 についてのレビューを書かせていただくことになりました。拙文にて失礼いたしますが、至らぬところ等、御指導賜われれば幸いです。

□ AD cafeについて

2011.3.11の震災から約9ヶ月の月日が経ち、被災地の周辺には復興という言葉が目立ち始めています。この言葉はその前向きな力強さゆえ「いまそこにある現実」を覆い隠すきらいもあり、現実と現在の接点が本当に同じところにあるのかどうかを見極める必要があると言えます。そうした中で、今回で4回目となるAD caféはこれまで学生や若手社会人を中心に震災に関わる様々な意欲的な取組みを紹介し、現地に目を向けその課題と成果を一同にすることで、小規模ながらも情報共有の役割を果たしてきていると言えます。

□ 発表者の方々

今回は過去に発表していただいた4組の方々、私共よりも少し上の世代の菅原大輔さんにお越しいただきお話を伺いました。
vol.02のレビューにおける中木さんの分類をもとに、整理させていただきまして、次章でそれぞれの発表報告をさせていただきます。

◇震災関係プロジェクトの分類(参考:2011.9.8 中木さん)
1) 避難所の居住性/仮設に関すること
  *陸前高田の木造応急仮設住宅: 建築家・菅原大輔さん
*女川町仮設住宅:チームVANさん
2) 本設の復興計画
*a book for our future,311:中木亨(8to8office)さん
3)創作やアートによる活動
  *Creative for Humanity とプロジェクトFUKUSHIMA! :アサノコウタさん
* tana*project:もりひろこさん

□発表について

1) 避難所の居住性/仮設に関すること
国土交通省の発表では12月5日現在、被災地を始め各地に52,120戸の応急仮設住宅が建設されました。供与期間が原則2年、その後の常設転用は不可とされる仮設住宅は通常各都道府県が協定を結ぶプレハブ建築協会からの供給を受け建設が行われますが、今回は地元企業への発注が可能になり、協会の標準仕様をもとに木造等の仮設住宅等が建設されることになりました。

*陸前高田の木造応急仮設住宅: 建築家・菅原大輔さん
岩手県陸前高田市住田町での60棟の木造応急仮設住宅です。住田町の住田住宅産業は震災前から「非常事態建設」を念頭に応急仮設住宅の開発をはじめ、今回もその経緯を踏まえ100Vの自家発電での施工、木材のパネル化による簡易組立等の規格化をもとに木造仮設住宅を建設しています。地場産業としての林業に町と企業が一体となって取り組んでいることもあり、町が仮設住宅の費用を負担し、事後に県が仮設住宅として認めているのも大きな特徴と言えます。そうした中で菅原さんは住田住宅産業と原田勝之氏とともに現地にてインフラ整備と配置計画を担当。最短距離で建物に給排水管を接続すること、既存樹木やプライバシーを考慮して建物の角度を振って配置すること等の操作で、外部空間に住民交流の場を設け、全体として集落のような仮設住宅群を構成しています。表面的な仕上げや構法に集中しがちな仮設住宅においてインフラ整備の重要性を明らかにし、配置計画で仮設住宅のあり方を変えることができることを示している例ともいえます。ここでは他に社団法人more Treesをはじめ多くの支援団体からペレットストーブやLEDなどの支援を受けており、菅原さんがハードを使うことでひと・こと・ものなどのソフトをどうつなげていき、どうすればそれらを最大限活かせるかを想像するのが建築家の職能なのではないかという話が印象的でした。

*女川町仮設住宅:チームVANさん
震災直後の体育館などの避難所で活用された紙管とカーテンの簡易間仕切りの提案と実施(vol.01)、女川町でのコンテナ積層型仮設住宅の竣工(vol.04)、現在進行中の集会所と震災から現在にいたるまで状況と共に必要とされる施設を継続的に建て続ける坂茂さん率いるチームです。
今回の発表ではISO規格のコンテナに窓を設けた居室(6坪タイプ)と、フレームのみのコンテナを組み合わせることで、耐震性を考慮しながらも開放的なリビングダイニングをもつ居室(12坪タイプ)を平面的に構成することや、3層に積層し、フットプリントを小さくすることで、外部に広いコミュニティースペースを設けること等の提案を紹介していただきました。住戸内部にはつくり付け棚を設置し、生活用品の収納スペースを確保しています。これらの棚はVANに寄せられた義援金をもとに現地で学生をはじめとするボランティアの方々により制作され、その数は1,800個にも上るとのことです。内部にはルイ・ヴィトン社、社団法人more Treesからの協力による間伐材の家具、良品計画からのカーテン等が設置されています。構法から内装、家具にいたるまで女川町をはじめ多くの支援が結実している仮設住宅でもあり、その支援規模の大きさは圧倒的で、先述の「ハードを使うことでひと・こと・ものなどのソフトをどうつなげていくか」に対するひとつの回答ともいえます。

2) 本設の復興計画

*a book for our future,311:中木亨(8to8office)さん
中木さんの活動については谷口さんによるvol.02のレビューが詳しいため詳細についてはそちらをお読み頂ければ思います。今回は特定のプロジェクトではなく、時系列の中で同時に平行して様々な動きや活動があったことを御紹介いただきました。青木淳建築計画所と共に協同提案する高台プロジェクト、中田研究室の学生発案の「なかしずてぬぐい」、UIA東京大会でのブース展示、そして現在進行中の木造建築物等、多くの人や企業が少しずつ関わり協同する小さな支援の集合が、ウェブ上の各種サービスを活用しながら行われているのが印象的でした。地元住民と遠隔地の方々との交信のみならず、データベースのクラウド化による情報共有など、汎用性のあるプロジェクトの進行形態も特徴で、本設の復興計画という大規模ゆえ、どうしても先行きが不透明な状況に陥る現状に対し、一つの小さな地区発のいわゆるボトムアップ型の復興計画の例とも言えるのではないでしょうか。復興計画の旗印のもとのひと・もの・ことのつながりをどう支援としてマネジメントするかが現地では非常に重要であるかを示唆しているように思います。

3)創作やアートによる活動

今回の震災には地震や津波に加え、福島での原子力発電所の被災による放射能汚染による被害があります。広範囲に及ぶ被災地で今も生活する方々と共にあるプロジェクトの紹介です。

*Creative for Humanity とプロジェクトFUKUSHIMA! :アサノコウタさん

Creative for Humanityでの活動と音楽家・大友良英氏方のプロジェクトFUKUSHIMA!における「大風呂敷」を御紹介していただきました。震災前からの「こどものえがくまち」「こどものいえ」をはじめとして現地のこども達と共に福島の可能性を模索してきたアサノさん。今回は避難所で段ボールを用いた「こどもの隠れ家」ワークショップを手掛け、生活に疲弊した大人たちが子どもたちの元気な様子を見て元気になったという話をされ、震災後も変わらない態度で継続的に福島のために活動していく様子は明るい可能性が提示されていたように思えました。後者の「大風呂敷」は実際に8月15日に行われたフェスティバルFUKUSHIMAの舞台でもあります。放射線衛生学者の木村真三氏の助言と共に放射線による表面被爆を防ぐため芝生に大風呂敷を広げ、そこで音楽と詩の屋外フェスティバルを行うという非常にメッセージ性の強いイベントでもありましたが、緑の大地に広がる大きな布地は本当に色鮮やかで美しく、そこで過ごす人々の楽しげな姿からその大風呂敷のおおらかさが際立っていたのがとても印象的でした。全国各地からの大・中・小に分けられた布地を市内の工房にて24時間態勢で縫い合わせ、多くの人々の手を伝い縫われた「大風呂敷」は広島の千羽鶴や戦中の千人針をどことなく想起させ、平和への願いが込められた巨大な布地ともいえます。大風呂敷は現在制作工房にて保管され、今後はアクリルケースに入れられて海外の美術館を巡回する話も出ているようです。
アサノさんは、自身が福島出身であることを拠り所に、「福島」と「FUKUSHIMA」をもって「フクシマ」に真っ向から立ち向かう稀有な存在ともいえます。現在は屋内に土や葉を敷き詰めたこどもの遊び場を二本松市に計画中とのことで、全国各地からの土や葉を集めているとのことです。

* tana*project:もりひろこさん

市井のボランティアとして避難所を訪れる中で、生活に関わるのものものを片付ける場所が足りないと感じ、段ボールで簡易収納「tana」制作するワークショップをはじめたもりさん。今回はVol.01では企画段階だったtana*projectがその後、段ボールやマスキングテープのメーカーをはじめNPO団体等の協力とともにこれまでに現地で何度かのワークショップを開催している様子を紹介していただきました。子どもや大人が「tana」に自由に絵を描く様子や創作に励む様子の写真はどれも楽しげで微笑ましい様子が印象的でした。10月には有限責任事業組合化を行い、今後の活動の継続のために、もりさん自身の立ち位置も変化しています。誰かと一緒につくるワークショップでは、参加者と運営者間のコミュニケーションはもとより絵の具や紙テープ、マジック等の工夫でひとつひとつの「tana」が豊かな表情に変化していき、参加者が充実した表情をしていたのがとても魅力的でした。現在は181個を制作し109人の方が参加されたとのことです。
「身の回りで使うものを自分でつくれるようになることがいい」というもりさんのことばからも児童福祉や高齢者福祉、こどもの教育活動などへの広がりがあるように思えました。最初は小さな思い付きであっても実現へむけて行動することで多くの人の手により発展していく可能性があることを示唆するプロジェクトでもあります。

□まとめ

今回は魅力的な仮設住宅を御紹介いただきましたが、総数52,120戸の仮設住宅において、雑誌等に掲載されているものを含めてもその数は微々たるものにすぎません。
仮設住宅と一言でいえども、自治体や関係団体の体力や温度差が住環境格差をもって顕在化している様は残酷ともいえます。この一見どうしようもない状況に対してvol.04では資金を伴う個人の行動力の可能性(VANさん)、インフラや配置という建物周辺を考える事での展開可能性(菅原さん)、地域発情報ネットワーク経由の復興計画(中木さん)、現状を受け入れた上で目の前の人のために行動すること(アサノさん、もりさん)と非常に示唆に富む発表が行われていたように思います。

□今後の課題

*仮設/本設住宅における「土地」の問題
後半のディスカッションでも話題に上がりましたが、仮設住宅には建設地の問題があります。「土地を買い、建物を建てる」従来の手順に対し、緊急的に広い土地を必要とする仮設住宅は国有地のみならず民有地を利用することもあり、土地の名義や税制の点からも微妙なところに位置しています。そうした中で国の補助金で建てられる仮設建物には事業体が入ったとしても「土地=床」に発生する家賃収入は見込めず運営資金の確保にも関わります。今後の本設においても「土地」や「道路」のような前提条件の理解と把握に基づく整備は重要な課題であるといえます。
*支援活動の持続性について
持続的な活動には当然ながら資金が必要です。これは全てのプロジェクト共通の課題になっています。一方で被災地域ではそこに生活する人々の失業など雇用問題が顕在化しており、第三者が内部に入り活動すること事体の是非を問う声も聞こえはじめました。今回発表された、チームVANさんのように寄付金を募り活動を行う例は実際にあり、寄付金による運営は世界的な医療活動組織でもある国境なき医師団も同様です。どう組織が社会と接続して活動するかは今後の被災地での活動や、別の地域が被災した場合を考えると重要で、特定の個人の行動力に頼るだけではなく組織だった仕組みを整え、備えることの必要性を感じます。

□おわりに
多くの方々がこれまで言われているように、震災での地震や津波による直接被害と地方都市における潜在的な問題の表面化による被害が何重にも重なっているのが現状です。被災地域を考えることで他の高齢過疎化地域、国の経済状況への関心を広げ、現状に接し対することで将来のリスクの軽減を思考することが求められている状況下ではこのような意見交換の場はその役割をもつものだと思います。

今回発表された方々は現在も継続して被災地での活動を行っています。
関係者の方々の今後の活動と健康を、被災地域で過ごす人々に少しでも多くの平穏が訪れることを願っております。
長々とした乱文の御静読にお付き合いいただきどうもありがとうございました。


小池宏明/渡辺明設計事務所

□参考文献

・「新建築 12月号」(新建築社)
・「新建築 住宅特集12月号」(新建築社)
・「建築雑誌10月、11月、12月号 特集 東日本大震災」(日本建築学会)
・「応急仮設住宅の着工・完成状況等」国土交通省12月5日現在

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